忍び草
を読んだ。
★★★★★
※
うろこの記録
ある女流作家の一生
海のほとり
路傍
忍び草
漂流
彼
七十歳
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暮れも押し詰まるにつれ、毎年型の如く小川は憂鬱になる。
としが越せるか越せないかの心配ではない。戦後開けた文運により、今日では一寸した銀行預金も出来ていて、暮し向きには別に差しつかえなかった。
近所の漁師の家で始める、餅搗きのポンポンという杵の音がはらわたにしみ、やり切れない思いにかり立てられるのである。気安めに賃餅など買ってきても焼いて喰う設備もない。 多年世捨人じみた、小屋暮しを書いて売りものにもしている手前が、自他をあざむく鍍金みたいにはげてしまい、杵の音も平気できけず、世間並な尋常なマイホームと云うものが、やたら虹色に映ってきて仕方がない。どこかの温泉場へ逃げ出すにしたところ、年越しの家族づれに混雑する旅館の廊下など想像すれば、行かない先から己の孤影が目の前に立ちはだかりもするらしい。(漂流)
収録順に読むと一層味わい深くなっていくような。